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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)446号 判決

控訴人(申請人) 金子勇 外二名

被控訴人(被申請人) 旭硝子株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二九年四月二二日附で控訴人等に対してなした解雇の意思表示の効力はいずれもこれを停止する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」という判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、疎明方法の援用認否は、当審において左記のとおり新な疎明方法の提出援用認否をしたほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(疎明省略)

理由

被控訴会社(以下単に会社と略称する)は板硝子及び曹達等の製造販売を営む株式会社であること、控訴人等は会社牧山工場の従業員をもつて組織する旭硝子株式会社牧山工場労働組合(以下単に組合又は牧労と略称する。)の組合員で、控訴人金子勇は同組合の執行委員長、同宮川清城はその副執行委員長、同池田明はその代議員であり、且つ後記解雇処分を受けるまでいづれも会社牧山工場の従業員であつたこと、牧労は会社に対し牧山工場における各職場の配置定員の増員を要求し、その要求を貫徹するため昭和二八年九月一〇日正午から同年一〇月二五日まで同盟罷業を実施し、その間控訴人金子勇は闘争委員長として、同宮川清城は副闘争委員長兼統制部長として右争議を指導したこと、会社が控訴人等主張の事由(原判決二枚目裏末行以下の(三)の事由)に基き昭和二九年四月二二日附書面をもつて控訴人等に対しそれぞれ控訴人等を懲戒解雇に処する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争がない。

第一、本件争議にいたるまでの経緯概要

会社の牧山工場を含む五工場及び三事業所においては、それぞれその従業員をもつて一個の単位労働組合を結成し、これらの組合はさらに旭硝子労働組合連合会(以下単に連合会と略称する)を組織し、連合会と会社との間に労働協約を締結していたが牧労は昭和二八年六月一六日右連合会を脱退した。牧労の脱退に伴い、牧労は右労働協約は牧労に関しては失効したものと主張し、会社は牧労に関してもなお有効であると主張し、双方の意見が対立するにいたつた。そこで右協約の効力問題に関し昭和二八年六月末頃から数次にわたり会社と牧労との間に団体交渉が行われたが、意見の一致をみないうちに、牧労は同年八月一二日の組合大会において、闘争委員会を設置すること及び大会の権限の大部分を闘争委員会に委譲すること等を決議し、且つ会社に対する前記労働協約の有効確認並びに各職場の定員制の適正化の要求を貫徹するため同盟罷業を実施することの可否につき組合員の一般投票を行うことを決定し、この決定に基き一般投票の結果同年八月一七日賛成多数の投票によりいわゆるスト権を確立した。その後牧労と会社との間に前記二要求について団体交渉が、行われたが労働協約の効力問題については同月二七日両者間に新な労働協約が締結されたため解決した。しかし定員制適正化の問題についてはついに交渉が妥結せず、牧労はこれに関する要求を貫徹するため同年九月一〇日正午及び同月一二日正午からそれぞれ四八時間の同盟罷業を実施し、さらに同月一四日から無期限の同盟罷業を実施するにいたつた。

以上の事実は、いづれも成立に争のない乙第六ないし第九号証、同第一一号証、同第一四ないし第一六号証、同第二〇号証、同第二五号証、原審証人坂部武夫(第一、二回)、当審証人江口是(第一、二回)、原審及び当審証人吉野衡の各証言、原審及び当審における控訴本人金子勇の供述(いづれも第一回)を綜合してこれを認めることができる。

第二、本件懲戒解雇事由の認定

一、陸上及び海上におけるピケッティングの概況

牧労が昭和二八年九月一〇日の本件同盟罷業開始当初から同年一〇月二五日の同盟罷業終了にいたるまでの間、副闘争委員長兼統制部長である控訴人宮川清城を長とし組合員を班員とする監視班を組織し、これらの監視班員を会社牧山工場の各門、鉄道引込線及びその周辺並びに同工場岸壁前面の海上に分散配置し、闘争委員会の決定方針に基き控訴人宮川清城の指揮監督のもとに陸上及び海上においてピケッティングを実施させた概況についての当裁判所の事実認定は、原判決理由(原判決三六丁表三行目から三八丁裏三行目まで)と同一であるからこれを引用する。控訴人等の当審において新に提出した疎明方法中右認定にてい触するものは採用しない。

二、陸上における違法ピケ事件

(一)  第三者の入場阻止

(1) 桑原勲の入場阻止

東京製鋼株式会社に勤務する桑原勲が同会社の給与制度改正の資料とするため、会社牧山工場において実施している職階制等の実施状況を問合せる目的で、昭和二八年九月一一日午後二時頃会社牧山工場を訪問すべく会社正門から入場しようとする際、組合監視班員等は桑原の入場用務を確めることもなく、組合の方針であるから組合本部発行の入門許可証がなければ絶対に入場させないと告げ、同人との応答によつて同人が争議と全く関係のない用務のため会社を訪問せんとする第三者であることを察知しながら、十数名の監視班員が桑原を取囲んで入場を拒否し、又その場に姿を現わした控訴人宮川も桑原から以上の経過を聞き、同人が争議に関係のない用務のため会社を訪問せんとする第三者であることを察知しながらしつように入場を拒み、多数の威力をもつて会社の来客の入場を阻止し、

(2) 稲永巡査部長及び平本刑事の入場阻止

八幡警察署勤務の稲永巡査部長及び平本刑事が公務のため同年一〇月七日午前一一時過頃会社牧山工場正門から入場しようとする際、組合監視班員等は組合本部発行の入門許可証がなければ入場させないと述べ、稲永が警察手帖を示し公務のため会社を訪問することを告げたにかかわらず、争議に無害の公務のため会社を訪問せんとすることを知りながら、多数の監視班員が稲永等を取囲んでしつように入場を拒否し、多数の威力をもつて会社の公務来訪者の入場を阻止し、

(3) 高木岩蔵の入場阻止

福岡県経済部水産課技師高木岩蔵が会社所有船舶の改測実施及びすでに実施した改測の手数料徴収の公務を帯びて、同年一〇月一四日午前一〇時過頃会社を訪問すべく会社牧山工場正門から入場しようとする際、組合監視班員等は前同様入門許可証がなければ入場させないと拒否したので、組合本部に赴き入門許可証の交付を求めたところ故なくこれを拒否された。そこで再び正門に行き入場を乞うたけれども、同人が争議に無害の右公務のため会社を訪問せんとすることを察知しながら、多数の監視班員は同人の身辺に寄りそつてしつように入場を拒否し、多数の威力をもつて会社の公務来訪者の入場を阻止し、

(4) 村上定雄外二名の入場阻止

三菱化成工業株式会社々員村上定雄外二名が九北会(北九州大手会社の組織する会)の例会開催に関する用務及び社宅入居者基準調査のため、同年一〇月二〇日頃午前一一時頃会社を訪問すべく会社牧山工場正門から入場しようとする際、前同様監視班員等は入門許可証がなければ入場させないと拒否したので、組合本部に赴き右用務を述べて入門許可証の交付を求めたにかかわらず、本部係員等は村上等が争議に無害の用務のため会社を訪問せんとすることを知りながら、「お前等は三菱化成の労組を合化労連から脱退させただろう」「三菱化成と旭硝子は同じ穴のむじなだ。帰れ」と怒号し、同人等の数次にわたる懇請にもかかわらず言を左右にして許可証の交付を拒み、更に折衝の末同日午後三時頃になつて漸くこれを交付したが、その間三時間余にわたり故なく会社来客の入場を阻止し、

(二)  請負業者等の入出場阻止

(1) 上田建設工業株式会社等の入場阻止

上田建設工業株式会社、木村鉄工株式会社等の請負業者は本件争議前から会社との契約に基き会社牧山工場構内において請負作業に従事していたものであるが、同年一〇月八日朝これらの請負業者の従業員百数十名が右請負作業に従事すべく会社牧山工場堂山門から入場しようとする際、控訴人宮川の指揮する組合員等外部団体の応援者を交えた約七、八十名の監視班員等は、堂山門前に人垣を作り又は座込んで強硬に入場を拒否し、請負業者等の代表者数名が組合本部に赴き入場の交渉をしたけれども、応対にあたつた本部係員等は、右入場阻止は組合の決議に基き闘争委員長又は副闘争委員長である控訴人金子及び宮川の了承のもとに実施するものであつて、工事契約書、作業内容、工事期間、作業人員氏名及び責任者の氏名を組合に提示させこれを検討した上でなければ入場させられないと答え、しつように入場を拒否し、同請負業者等を妨害し、

(2) 栗組の出場阻止

栗組は本件争議前から会社との契約に基き会社において使用する酸素瓶の搬入及びその空瓶の搬出作業に従事していたものであるが、同年一〇月九日午前一〇時過頃栗組のトラックが酸素空瓶を積み会社牧山工場港町門から出場しようとする際、組合監視班員多数は門前に密柑箱をならべこれに木材を渡してその上に座込み、栗組責任者の再三の要求にもかかわらずしつように出場を阻止して栗組の作業を妨害し、

(三)  会社非組合員の入場阻止

(1) 富松規行の入場阻止

会社牧山工場庶務課長富松規行が会社に出勤するため同年一〇月一二日午前八時過頃同工場正門から入場しようとする際、約二〇名位の組合監視班員等は富松を取囲み、闘争本部の指令により身分証明書がなければ入場させないと述べしつように入場を拒否し、又その場に姿を現わした控訴人宮川も富松から右経過を説明して入場を拒否すれば業務妨害となることを訓されたにかかわらず、富松が会社の非組合員として出勤するため入場しようとすることを察知しながら、「身分証明書を持たぬ者は絶対に通さぬ」と叫び、監視班員等にもその旨を命じてしつように入場を阻止して同人の業務を妨害し、

(2) 村上正夫及び若杉豊太郎等の入場阻止

会社牧山工場副長村上正夫、同工場労務課長若杉豊太郎外二名の会社非組合員が組合の申入により団体交渉に出席するため、同年一〇月一二日午後三時頃会社牧山工場正門から入場しようとする際、約二〇名の組合監視班員等は村上等から団体交渉のため入場せんとすることを告げられながら、組合本部の指令により身分証明書を提示しなければ入場させないと述べ、スクラムを組んでしつように村上等の入場を阻止し、団体交渉を不能ならしめて同人等の業務を妨害し、

(四)  鉄道引込線の列車妨害

(1) 会社牧山工場構内鉄道引込線において会社の製品等を積込んだ貨車一〇両編成の日本国有鉄道公社の列車が、同年一〇月八日午後一時頃国鉄枝光駅に向け発車しようとする際、多数の組合監視班員等は右引込線路上に座込み、枝光駅長の制止にもかかわらず座込を解かず、かえつて組合本部からかけつけた執行委員宮原次郎吉は組合の指令に基き会社製品の出荷を阻止すると揚言して積込品の検査を要求しかくして時余にわたり列車の進行を妨げ、多数の威力をもつて国鉄の列車運行の業務を妨害するとともに、工場構内において暴行に類する威力行為をなし、

(2) 前記引込線において会社製品を積込んだ国鉄の貨車三両並びに国鉄本線において会社の燃料石炭を積込んだ国鉄貨車六両を引込線から引出し又は引込線に押入れるに際し、同年一〇月九日午後一時頃から多数の組合監視班員等は前同様引込線路上に座込んでその進行を妨げ、多数の威力をもつて国鉄の貨車の引出及び押込の業務を妨害するとともに、工場構内において暴行に類する威力行為をなし、

(五)  赤星智雄逮捕連行

もと組合員であつたが本件負議中組合を脱退して会社牧山工場の土建課浚渫埋立係員として従業中であつた赤星智雄が、同年一〇月二三日午前一一時頃伝馬船に乗り同工場岸壁南端の松ケ島船溜附近の浚渫作業を見廻つていたところ、チャッカー船に乗込んでいた組合の海上監視班員五名はチャッカー船を赤星の伝馬船に横着けにしてこれを岸壁に引寄せ、同人の手足を握つて岸壁に揚げ同人の抵抗を排し附近にいた他の組合員数名とともに同人を逮捕して組合本部に連行し、

三、海上における違法ピケ事件

前記一において引用する原判決の認定した海上におけるピケッティング概況に示すとおり、牧労は同年一〇月一〇日以降同月二五日争議終了にいたるまでの間、会社牧山工場岸壁の前面海上に六隻ないし一〇隻からなる監視船列を敷き、各船間をマニラロープで連結し、さらに竹竿束、竹筏、渡板及び漁網等を右ロープに結んで海面に浮遊させ、岸壁の南側を残して前面の海上を塞ぎ、岸壁に発着する船舶の進路を著しく制約した結果、

(一)  同年一〇月一〇日午後二時頃には国策パルプ所属の芸陽丸が、同月一一日午後八時頃には会社の傭船幸運丸が、同月一二日午後八時頃には山下近海汽船所属の三原丸が、同月一五日午前一〇時頃には山九運輸所属の第一三三号山九丸及び第八九号山九丸が、それぞれ会社との契約に基き会社製品を積込んで監視船列に制約された狭小の水路を南側に後進して出港するにあたり、監視船及びマニラロープその他の前記浮遊物等との接触の危険にさらされ、又同月一六日午後二時頃貝屋海運所属の泰久丸が入港する際も、制約された狭小の水路を難行するうち、監視船列のマニラロープが同船の左舷錨に引掛かり、かくしていづれも船舶の往来に危険を生ぜしめ、

(二)  同年一〇月一六日午後五時頃原汽船所属の第一五真盛丸が前同様会社製品を積込んで狭小の水路を曳船に曳行された出港する際、浮遊する前記竹竿が同船のスクリユーに接触し、又同月一八日午後七時半頃熊谷組工業所々属の幸陽丸が会社製品の積込のため接岸せんとする際、岸壁前面海上が塞がつている上監視船に夜間標識灯もつけてないため、前記ロープに気づかずにこれを横切ろうとして転舵しつつあるところへ、八幡側から航行してきたくろがね丸に出会い、寸時にしてこれと接触するの危険にさらされ、その後漸く南側の水路入口を発見してこれから入港しようとしたところ、組合監視班員等は水路に網を張つてあるのを承知なら入港せよと虚偽の事実を叫んで脅迫したため、真盛丸はついに接岸を一応あきらめて附近海上に仮泊するのやむなきにいたり、又同月一九日午後零時半頃新日本汽船所属の辰柿丸が会社の原料を積込んで工場岸壁に接岸しようとしたが、前面海上を塞ぐ監視船列に妨げられて一時若松港内で待機し、次で同日午後三時過頃再び工場岸壁前の海上に赴き入港水路の啓開を待つたが監視班員等は言を左右にして啓開の要求に応じないため、やむなく附近海上に立往生している際、附近航行中の友玉丸と接触衝突の危険にさらされ、かくしていずれも船舶の往来に危険を生ぜしめた。

そして以上二及び三の各所為は、闘争委員長たる控訴人金子及び副闘争委員長たる控訴人宮川を含む組合闘争委員会において、前叙のような違法不当のピケッティングも要求貫徹のためにはやむを得ないという闘争方針を協議決定し、その趣旨を監視班員等に指令して行わせたものである。

(証拠説明)

二の(一)の(1)の事実は、原審証人桑原勲、同東本光男の各証言、これらの証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一二二ないし第一二四号証、原審証人庄野昭の証言(第一回)の一部、当審証人田代敏幸、同大峰平(第二回)、同挾間敬夫(第二回)の各証言によつてこれを認める。該認定に反する右証人庄野昭の証言の一部、当審証人片山弥吉、同中武謙三郎の各証言、原審及び当審における控訴本人宮川の供述(各第二回)は採用しない。

同(2)の事実は、原審証人庄野昭の証言(第一回)の一部、同証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一二五ないし第一二七号証、原審証人挾間敬夫の証言によつて成立を認め得る乙第一八五号証、当審証人田代敏幸、同小佐輝義の各証言によつてこれを認める。右証人庄野昭の証言、当審証人穴見辰三、同堤峰松の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(3)の事実は原審証人挾間敬夫の証言によつて成立を認め得る乙第一八六号証の二、原審証人田原哲夫の証言及び同証言によつて成立を認め得る乙第一八六号証の一、当審証人白木誠(第一回)、同田代敏幸、同大峰平(第二回)の各証言によつてこれを認める。当審証人坂井俊夫、同小田辰治の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(4)の事実は、原審証人村上定雄、当審証人辻野坦の各証言によつてこれを認める。当審証人松尾俊一の証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(二)の(1)の事実は、成立に争のない乙第七七号証、同第二〇九号証、同第二三〇号証、同第二三一号証、原審証人坂井俊夫、同松村正、同吉村稔の各証言及びこれらの証言と弁論の全趣旨によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一三六号証、同第一三八ないし第一四二号証、原審における控訴本人宮川の供述(第二回)、当審証人屋形一弘の証言及びこれによつて右事実の現場の写真と認められる乙第二一〇号証、同第二一一号証、二四三ないし第二四六号証、当審証人細坂義弘、同木村利男の各証言によつてこれを認める。原審証人坂井俊夫、同松村正、同吉村稔、同白貝光美、同大限清吾、当審証人吉村義雄、同高田次男(第二回)、同植松昌、同比良秀雄(第一回)、同山田和彦の各証言、原審及び当審における控訴本人宮川の供述中該認定に反する部分は採用しない。

同(2)の事実は、原審証人池田和彦の証言及び同証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一三三ないし第一三五号証、原審証人庄野昭の証言(第一回)の一部、当審証人井上道雄の証言によつてこれを認める。右証人庄野昭、当審証人浅井滋夫の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(三)の(1)の事実は、原審証人挾間敬夫の証言及びこれによつて成立を認め得る乙第一九四号証、原審証人北川福太郎の証言の一部及びこれによつて右事実の現場の写真と認められる乙第一四六号証、当審証人田代敏幸、同挾間敬夫(第二回)の各証言によつてこれを認める。右証人北川福太郎、原審証人吉村稔の各証言、原審における控訴本人宮川(第三回)の供述、当審証人赤星登、同渡辺数馬の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(2)の事実は、原審証人坂部武夫の証言(第二回)及びこれによつて成立を認め得る乙第一九五号証、成立に争のない乙第九九号証、原審証人北川福太郎の証言の一部、当審証人田代敏幸、同江口是(第二回)の各証言によつてこれを認める。原審証人北川福太郎及び当審証人赤星登の各証言中核認定に反する部分は採用しない。

同(四)の(1)の事実は、原審証人挾間敬夫の証言及びこれによつて成立を認め得る乙第一九八号証の一、二、原審証人宮原次郎吉の証言(第一回)の一部及びこれによつて右事実の現場の写真と認められる甲第一六証証、乙第八二ないし第八五号証、原審証人北川福太郎の証言の一部、当審証人江口寿一の証言によつてこれを認める。原審証人宮原次郎吉、同北川福太郎、同力丸要助、同吉武重彦、同徳永巌、当審証人石割綾夫、同比良秀雄(第一回)の各証言中核認定に反する部分は採用しない。

同(2)の事実は、原審証人挾間敬夫の証言及これによつて成立を認め得る乙第一九九号証、文書自体に徴し成立を認め得る乙第二〇六号証、同第二〇七号証、原審証人力丸要助、同吉武重彦の各証言の一部及びこれらの証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第八六ないし第九五号証、当審証人江口寿一の証言によつてこれを認める。原審証人力丸要助、同吉武重彦、同徳永巌、当審証人比良秀雄(第一回)の各証言中核認定に反する部分は採用しない。

同(五)の事実は、原審証人赤星智雄の証言、同証言と原審証人池田和彦の証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一七六ないし第一八一号証によつてこれを認める。当審証人山口茂樹、同広瀬和視の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

三の(一)の事実は、すでに認定した海上におけるピケッティングの概況に関する事実及びその認定に供した証拠の外、当審証人白木誠の証言(第二回)及びこれによつて成立を認め得う乙第一四八号証、同第一四九号証によつてこれを認める。原審証人栗山登美雄、当審証人松本楽美、同井上保人の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

同(二)の事実は、すでに認定した海上におけるピケッティングの概況に関する事実及びその認定に供した証拠の外、前掲乙第一四八号証、同第一四九号証、原審証人西郷正雄、同竹本良一の各証言、同朝来力の証言の一部、原審証人挾間敬夫の証言により成立を認め得る乙第一九七号証、前示証人西郷正雄の証言によつて右事実の現場の写真と認められる乙第一五九ないし第一六一号証、同第一六八号証、第一七〇号証、同第一七一号証、当審証人白木誠(第二回)、同村富亮一、同大峰平(第二回)の各証言によつてこれを認める。原審証人栗山登美雄、同朝来力、同中村多喜雄、当審証人井上保人、同井上政夫の各証言中該認定に反する部分は採用しない。

そして以上二及び三の各所為が、控訴人金子及び宮川を含む組合闘争委員会において、前叙のような違法不当のピケッティングも要求貫徹のためにはやむを得ないとの闘争方針を協議決定し、その趣旨を監視班員等に指令して行わせたものであることは、すでに認定した右各事実とその認定に供した各証拠を綜合してこれを認めることができる。

四、正門侵入事件

同年一〇月九日組合員及び争議応援のため集つた外部団体所属者を交えた総数約一、〇〇〇名の者が控訴人金子及び宮川を先頭に三列縦隊をつくり会社牧山工場正門前道路上において示威行進をした際、同控訴人等が多数の隊員等と共同してその威力を示し喚声を挙げながら、会社の保安係守衛等が門扉を閉ざして警戒中の正門の門扉を押開いて工場構内に故なく侵入し、構内の秩序並びに工場の正常の業務の運営を乱し、且つ控訴人金子が侵入を阻止せんとした守衛坂崎精二に暴行を加えて傷害を与えたことについての当裁判所の事実認定は、証拠として当審証人山中昭夫、同大峰平(第一回)の各証言を追加する外、原判決理由(原判決五四丁表四行目から五六丁裏五行目まで)と同一であるからこれを引用する。当審証人下村政男(第二、三回)、同比良秀雄(第二回)、同末吉嘉雄、同小暮友吉、同上杉謙一(第三回)の各証言、当審における控訴本人金子及び宮川の供述中該認定に反する部分は採用しない。

五、宣伝車包囲事件

同年一〇月一二日会社の非組合員永沢慶治外二名が会社の雇入れた西日本宣伝社所属の宣伝車に乗組み、宣伝放送をしつつ会社牧山工場の各社宅を巡回し、争議団から離脱して同工場で就業中の会社従業員等の家族から本人に渡すべく預つた荷物を積んで進行中、多数の牧労青年行動隊員が宣伝車の前方に座込み且つ永沢慶治を脅迫している際、その場にかけつけた控訴人宮川は右行動隊員等の措置を認容する態度に出た上、自らも永沢に預つた荷物の引渡及び組合本部への同行を強要し且つ右隊員等に座込の継続を命じ、多数の威力を示して永沢等を脅迫しその宣伝業務を妨害したことについての当裁判所の事実認定は、証拠として新に当審証人青島港の証言を追加する外、原判決理由(原判決五六丁裏九行目から五八丁表八行目まで)と同一であるからこれを引用する。当審証人安倍君子、同山崎良人、同上野三男、同藤原清重の各証言及び当審における控訴本人宮川の供述中該認定に反する部分は採用しない。

六、荷札剥取事件

同年一〇月一六日控訴人池田が故なく会社牧山工場従業員組合事務所に侵入し、同組合がその組合員等の家族から同工場で就業中の本人に渡すべく委託されて同事務所に保管中の荷物の荷札を剥取つて持去つたことについての当裁判所の事実認定は、原判決理由(原判決五八丁表一二行目から五九丁表五行目まで)と同一であるからこれを引用する。当審証人上杉謙一の証言(第四回)中該認定に反する部分は採用しない。

七、社宅等デモ事件

同年一〇月一七日控訴人池田が他の組合員多数と共同し多数の威力を示して会社牧山工場従業員組合事務所の看板、会社牧山工場中野社宅の門灯、門扉その他を損壊し社宅の秩序を乱したことについての当裁判所の事実認定は、原判決理由(原判決五九丁表九行目から六〇丁裏五行目まで)と同一であるからこれを引用する。当審証人豊島井の証言中該認定に反する部分は採用しない。

第三、控訴人等の行為は正当の争議行為であるとの主張に対する判断。

一、保全協定に関する主張について。

(一)  争議協定ないし保全協定に関する団体交渉の経過

牧労は昭和二八年八月一七日の組合大会の議を経て争議体制を確立したので、会社は翌一八日牧労に対し争議協定の締結を申入れ、同日から同年九月二日まで九回にわたり会社牧山工場においてこれに関する団体交渉を行つた。この交渉においては、牧労が連合会の傘下にあつた当時連合会と会社との間に締結された労働協約が牧労の連合会脱退に伴い牧労との関係においてなお効力を有するか否かについて、かねて牧労と会社との間に意見が対立していたので、該協約の効力問題を棚上にして争議協定(保全協定を含む)の具体的取極をすることに双方の諒解ができたのであるが、しかし労働協約の効力に関する基本的考方の相違等によつて、会社の提示した争議協定案の逐条的審議にあたり幾多の見解の相違をきたした。ことに同年、八月二〇日の団体交渉において、会社は保全業務の範囲等について後記九項目案を提示したが、牧労は同月二四日その対案として後記四項目案を提示した上、会社側がもしこれを受諾しなければ一切の交渉に応じないという強硬な態度を示した。会社側も牧労の右四項目案をもつては硝子槽窯及び発電所ボイラー等の破壊を招来し回復することのできない損害を蒙ると主張して極力これに反対した。しかし交渉の過程において、争議中機動するマシンを六機とすること、マシンで引上げた硝子は製品としないですべてカレツトすること及び爆発の恐れのある生石灰の出荷はこれを行うことについては中間的了解に達した。かくするうち同年八月二七日会社東京本社における労働協約締給に関する団体交渉が妥結し、会社と牧労との間に新たな労働協約が成立したので、会社は翌二八日の団体交渉において、新に成立した労働協約第一〇九条に基く争議協定として協定を締結することを申入れたところ、牧労はこれを以て労働協約の効力問題を棚上にして争議協定を審議せんとする従前の諒解に反するものとして会社の申入を拒否し、且つ前記四項目の案の主張を固持して譲らないため、同年九月二日団体交渉は一応不調に終つた。しかるに会社は同月九日午前九時過頃牧労から実力行使の通知を受けたので、同日牧労に対し再び保全協定の締結に関する団体交渉を申入れ、同日午後三時過頃から団体交渉が開始された。しかし牧労はその交渉においても会社の提示した保全業務の範囲に関する提案を承認せず、かえつて前記四項目案にさらに二項目を附加して後記六項目案を提示し、もし会社がこれを受入れなければ保全要員差入に対する態度を保留すると述べ強硬の態度を示したので、翌一〇日午前三時まで続けた深夜の交渉も決裂に瀕した。そこで牧労は自己の意見によつて作成した保全要員の名簿を会社に差出したので、会社ではその名簿に記載する保全要員の一部について変更を申入れ組合もこれを諒承したので、会社においてその修正された保全要員名簿の写二通を作成し、その一通を組合に交付して交渉を終り、かくして本件争議に移行するにいたつた。

以上の事実は成立に争のない甲第三号証の一、八、同第四号証の三、乙第二〇号証、同第二五号証、同第五三号証、同第五六号証(甲第四号証の三と同一)、原審における控訴本人宮川の供述によつて成立を認め得る甲第三号証の六、原審証人坂部武夫の証言(第一回)によつて成立を認め得る乙第五四号証、同第五五号証、同第六二号証、原審証人坂部武夫(第一、二回)、当審証人江口是(第一、二回)、原審及び当審証人吉野衡の各証言、原審及び当審における控訴本人宮川の供述(第一、二回)の一部を綜合してこれを認める。控訴本人宮川の供述中該認定に反する部分は採用しない。

(二)  保全協定の成否

前掲甲第三号証の六、乙第五五号証、乙第五六号証によれば、会社の提示した九項目案、牧労の提示した四項目案及び六項目案の内容は次のとおりである。

九項目案

(1) 原料塩の荷揚保管に要する業務要員

(2) マシン六機の引上に要する発生炉用炭の荷卸要員

(3) 風水害の場合の社会的需要に応ずるための出荷要員

(4) 特需及び貿易品の出荷要員

(5) スト宣言までの契約に基く出荷要員

(6) 石灰石列車を確保しこれが荷卸のための要員

(7) 液体苛性の出荷要員

(8) 木材受入要員

(9) 生石灰の払出

四項目案

(1) 会社は原燃材料一切の購入、受入を行つてはならない。但しマシン六機を機動するに必要とする中塊炭の受入はこれを組合も認める。

(2) 会社はいかなる事情があつても一切の出荷を行つてはならない。但し爆発の恐れのある生石灰の払出は従来どおり行うことを組合も認める。

(3) 会社はマシンより引上た硝子はすべてカレットとしなければならない。

(4) 会社は社員たる組合員以外の労務者をもつて社員たるの作業に就業させてはならない。

六項目案((1)ないし(4)は四項目案に同じ)

(5) 組合は組合が必要と認める保全作業え就業する要員を会社に差出す。会社は組合の了解なくして組合員を保全要員としてはならない。

(6) 会社は(1)項ないし(4)項以外であつても、組合の行う罷業の効力を阻害する行為を行つてはならない。

前各号が履行されない場合、組合は組合が差出した保全要員についてその態度を留保する。

次に原審及び当審における控訴本人宮川及び金子の供述によれば、前示団体交渉において次のような内容の保全協定が成立したというのであるが、該供述は後記の理由によつて採用し得ないし、控訴人等の援用するすべての証拠によるもその事実を認むるに足らない。

控訴人等の述べる保全協定の内容

(1) マシン六機を運転すること。これによつて引上げた硝子はすべてカレットする。

(2) 原燃材料の購入及び受入はマシン六機の機動に必要な中塊炭に止め、その他は一切入荷しない。

(3) 出荷は生石灰の払出だけとし、その他の製品の出荷は一切しない。

(4) 請負業者、傭員、嘱託、非組合員、保全要員は入場にあたつて、それぞれの資格を明らかにした腕章をつけ、請負業者及び傭員は堂山門から出入し、その他は正門から出入する。

(5) 請負業者は腐朽施設の取毀作業のみに従事させ、その他の生産作業には従事させない。

(6) 同盟罷業に突入する時刻にサイレンを吹鳴し、その後一時間内に罷業参加者は工場から退場する。

(7) 保全要員は保全要員名簿のとおりとする。

ところで控訴人等の主張し供述する保全協定成立の事実で認められない理由は次のとおりである。

(1) 前示団体交渉の過程において、争議中はマシン六機だけを機動し、これによつて引上げた硝子はすべてカレツトすること及び、爆発の恐れのある生石灰の出荷は牧労においてもこれを認めることについて、一応双方の意見が一致したことは前認定のとおりである。又マシン六機を機動するに必要な中塊炭の入荷については、牧労の前記四項目案及び六項目案においても認めているので、会社としてもそのこと自体はこれを拒むべき理由がない。しかしこれらはいづれも交渉の過程における中間的部分的合意であつて最終的に双方の確認を経たと認むべき証拠はない。

当審証人江口是の証言(第一回)によれば、硝子槽窯の保全は牧山工場においては最も重要な保全目標であつて、これが保全は中塊炭の補給だけで足るものでなく、原料塩その他の原材料を必要とすることが認められる。しかるに会社の前記九項目案に示された保全業務の範囲は広きに過ぎる嫌いがあるとはいえ、中塊炭以外の一切の原材料の入荷をしないことを会社が承認したものとは認め難い。又右証人の証言によれば、会社の製品出荷作業は従来主として牧労組合員以外の者によつて行われていたことが認められるので、会社が争議中に牧労組合員以外の者による生石灰以外の製品の出荷作業を一切行わないことを承認したものとは首肯し得ない。会社が前記九項目案の中に生石灰以外の製品出荷を提示したのは、牧労組合員によらないで争議中でもなし得る製品出荷作業が争議によつて妨げられるのを恐れ、所要の製品出荷について牧労の承認を得るためであると考えられる。又会社との契約に基き請負業務に従事する請負業者はもとより非組合員であるから、会社は反対の協定がない限り争議中といえども請負業者に平常と同様の作業を行わせ得ることは当然であつて、争議中請負業者に腐朽施設の取毀作業以外の作業を行わせないことを会社が承認したということもたやすく首肯し難い。

次に団体交渉の終末に際し、牧労の提示した保全要員名簿の一部を会社の申入によつて修正した上、会社においてその写二通を作成し一通を牧労に交付したことはすでに認定したとおりである。しかしこれをもつて保全要員名簿に基き保全要員の差出及び受入をすることの合意が成立したとは認められない。元来保全協定において最も重要な事項は保全業務の範囲とこれに要する保全要員の配置人数であつて、単に何課に誰々を保全要員として配置するというだけの保全要員名簿を取交しただけでは、保全業務の範囲は不明確である。特に本件のように団体交渉において保全業務の範囲について双方の主張が大きく食違つて強硬に相対立した事案において、その点の交渉がまとまらなければ、会社側としては一の合意として拘束を受ける意思で牧労の提示した保全要員を受入れることを積極的に承諾したものとは考えられない。かえつて前示交渉の経過及前記証人江口是の証言によれば、会社が右名簿写を取交したのは、牧労側が一方的に提示した保全要員でも保全作業が必要である以上はこれを拒否することができないので、単にこれを受入れることにしたに過ぎず、又名簿の一部修正を申入れたのは不適当の者の入替を求めたに過ぎないことが認められる。

控訴人等の主張及び控訴本人宮川の供述中には、保全要員の提供は牧労の自主的判断によつてなすものであつて、保全要員の引上も牧労の一方的判断によつて行うという留保には全然触れていないが、牧労の前示六項目案にはその趣旨の留保を明示しているのみならず、交渉過程においても控訴人宮川は数回そのことを明言したことは当審証人江口是、原審証人坂部武夫の各証言によつて明らかである。そして牧労が交渉中ついにこの留保条項を撤回しなかつたことも当審における控訴本人宮川の供述(第一回)により認められる。この点から考えても、かかる一方的判断による留保条項を伴う協定が成立したものとは考えられない。

(2) 控訴人等は甲第三号証の一ないし七(保全要員増員申入書)、甲第五号証の一(硝子原料入荷承認申入の件)、甲第五号証の二(硝子槽窯保全業務の解釈に関する質問書)、甲第一八及び一九号証(保全要員変更承認通知書)を以て保全協定成立の資料であると主張するが、その主張は採用し得ない。すなわち、会社が右甲第三号証の一ないし七による保全要員増員申入及び甲第五号証の一による硝子原料入荷承認申入をすることは、保全協定が成立していない場合にもあり得ることである。又右甲第五号証の二の会社の質問書中には「硝子槽窯の保全を行うためには引上六機を運転する必要あることは、さきに数次に亘る団体交渉において話合、八月二二日の団体交渉において貴組合もこれを認め、且つ九月九日の保全要員に関する協定においても明らかにこれを承認せられたものであり、会社、組合の意見は全く一致したものであつた」と記載し、右甲第一八号証の通知書にも「九月一〇日貴方との間に協定した保全要員」と記載しているが、原審証人坂部武夫の証言によれば、会社は前記団体交渉において牧労が前示留保条項を主張し強硬な態度をとつていたので、争議中保全要員を引上げられることを恐れ、牧労に拘束的印象を与えて保全要員の引上を避けしめる手段として、右書面に保全協定が成立したかのようなことを記載したものであることがうかがわれるので、該協定成立の資料とはなし難い。

以上説明のとおり控訴人等の主張する保全協定は認められないから、本件懲戒解雇の事由となつた控訴人等の行為は、会社側の保全協定違反及び該協定を前提とする労働協約違反に対抗するためになした正当の争議行為であるとの主張は、その前提を欠くものであつて採用し得ない。

二、スキャップ及び会社の支配介入等の不当労働行為に関する主張について。

本件争議中牧労の組合員の一部が組合を脱退し会社牧山工場において就労したことは当事者双方の弁論の全趣旨によつて明らかである。控訴人等はこれをもつて会社が牧労の組合員に対する支配に介入し、一部組合員等を援助して就業せしめたもので不当労働行為であると主張する。しかし控訴人等援用の本件証拠によつては会社が牧労の支配に介入し一部組合員等を牧労から脱退させたとは認め難い。そして会社は争議中でも操業を中止すべき義務はないのであるから、反対の協定、たとえば職場代置を禁ずる協定がない限り、脱退した組合員に就業させることは自由であり、その就業のため会社が種々の便宜を供与することはむしろ当然のことである。会社と牧労との間に新に締結された労働協約第一一〇条には「会社は前条の保全協定が誠実に履行される限り、罷業の実体を阻害する目的をもつて他の労働者を就業させない」と規定しているが、本件保全協定の成立が認められない以上右条項は適用されない。又牧労の提示した六項目案中の職場代置禁止及び組合の罷業の効力阻害の禁止に関する項目も協定として成立したことを認むべき証拠がない。従つて会社に不当労働行為があるという主張も採用し得ない。

第四、控訴人等の本件行為に対する会社就業規則の適用

前記認定にかかる第二の二ないし七の各所為中、

控訴人金子及び宮川の二の(一)の(1)ないし(4)の各所為は、成立に争のない乙第一八二号証の会社就業規則第一七七条第五九号、第一六九条に、同(二)の(1)及び(2)の各所為、同(三)の(1)及び(2)の各所為は同規則第一七七条第二七号、第一六九条に、同(四)の(1)及び(2)の各所為は刑法第二三四条所定の業務妨害罪として同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条に、同(五)の所為は刑法第二二〇条所定の逮捕罪として同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条に、同三の(一)及び(二)の各所為は刑法第一二五条所定の往来妨害罪として同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条に、同四の所為中門扉損壊の点は刑法第二六一条所定の毀棄罪として、又傷害を加えた点(但しこれは控訴人宮川に限る)刑法第二〇四条の傷害罪としてそれぞれ同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条(但し傷害については第一六九条を適用しない)に、工場内で暴行又はこれに類する行為をした点で同就業規則第一七七条第四三号、第一六九条に各該当し、

控訴人宮川の同五の所為は刑法第二三四条所定の業務妨害罪として同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条に該当し、

控訴人池田の同六の各所為は、建造物侵入の点で刑法第一三〇条所定の建造物侵入罪として、又荷札を剥取つて持出した点で刑法第二六一条所定の毀棄罪として、それぞれ同就業規則第一七七条第五八号に、同七の所為は刑法第二六一条所定の毀棄罪として同就業規則第一七七条第五八号、第一六九条に各該当する。

それ故会社が控訴人等を同就業規則第一七八条により懲戒解雇に処したことは相当であつて右解雇が権利の濫用であると認むるに足る証拠はない。従つて本件解雇を違法無効とする控訴人等の主張は採用し得ない。

それ故爾余の争点について判断するまでもなく、控訴人等が仮処分によつて保全せんとする権利については疎明を欠くことになるので、本件仮処分申請はこれを却下すべきものであつて、これと結果を一にする原判決は相当である。

よつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

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